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津地方裁判所 昭和51年(行ウ)4号 判決

津市阿漕町津興二四一六番地

原告

太田英郎

同所

太田志げ

右両名訴訟代理人弁護士

村田正人

石塚俊雄

中村亀雄

名古屋市中区三の丸三丁目三番二号

被告

名古屋国税局長 米里恕

右指定代理人

細井淳久

大橋哲雄

木村三春

樋口繁男

横並昌治

藤塚清治

森下外美雄

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告太田英郎に対し、昭和五〇年四月一六日別紙物件目録(一)記載の建物(以下「本件建物」という)につきなしたる差押処分を取消す。

2  被告が、原告太田志げに対し、昭和五〇年四月二六日付で税額九二万三、五〇〇円を同年五月二六日までに納付すべき旨のの第二次納税義務告知処分を取消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、原告太田英郎(以下「原告英郎」という)に対し、昭和五〇年四月一六日、昭和四六年度申告所得税八三万九、六〇〇円及び加算税八万三、九〇〇円についての滞納処分として、別紙物件目録(一)記載の建物につき差押処分をなした。

2  被告は、原告太田志げ(以下「原告志げ」という)に対し、昭和五〇年四月二六日、原告英郎の第一項滞納国税及び滞納処分費合計九二万三、五〇〇円につき同年五月二六日までに納付すべき旨の第二次納税義務告知処分をなした。

3  しかし、右差押処分及び第二次納税義務告知処分は次の理由により違法である。

(一) 差押処分

原告英郎名義の昭和四五年分の所得税の確定申告書は偽造である。

つまり、原告英郎は昭和四四年頃、真弓勇から別紙物件目録(二)記載の各土地(以下「本件土地」という)の売却を頼まれていたところ、永合寿(改名前は永合忍匡)と落合高雄より右真弓に紹介してほしい旨の依頼を受けた。そこで、右両名及び月の友の会の社員を真弓に紹介したところ、真弓と月の友の会との間で本件土地の売買契約が成立したのである。ところが、右のように原告英郎は単に紹介したのみであるのにかかわらず、永合寿と落合高雄は、共謀の上、原告英郎に無断で原告英郎名義の分離短期譲渡所得税八三万九、六〇〇円と記載された確定申告書を作成し津税務署長に提出したのである。

ところで、確定申告書が偽造であり、原告英郎が知らないうぢに第三者によって右申告書が税務署に提出された場合は、外見上租税債務が発生したように見える場合でも、右租税債務は不存在である。

そして、租税債務が不存在である以上、これを前提とする滞納処分も違法であり、本件差押処分も違法というべきである。

(二) 第二次納税義務告知処分

主たる納税義務に係る租税債務と第二次納税義務に係る租税債務とは別個の債務であるが、後者は前者に対し附従性をもつものであるから、前述のように主たる納税義務者の租税債務が不存在である以上、第二次納税義務もその附従性により不存在となるからこれを前提とする第二次納税義務告知処分も違法である。

4  原告らは、昭和五〇年六月一六日、名古屋国税不服審判所に対し、審査請求をしたが、三か月を経過してもなお裁決が行なわれていない。

よって、原告らは、被告に対し、前記請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の各事実は認める。

2  同3の事実は否認する。本件確定申告書作成の経緯は次のとおりである。

昭和四六年五月三一日、津税務署へ出頭した税理士永合寿及び原告英郎に対し、柏木係官が、「真弓勇が原告英郎に対し本件土地を一、六三四万九、六八〇円で売却したこと、また、右土地を原告英郎が月の友の会へ一、九九一万六、〇〇〇円で売却した」事実を話したところ、原告英郎は右事実を認めたので、前記係官は所得税の納税義務が原告英郎にあることを原告英郎らに説明し確定申告書を提出することを指導したところ、原告英郎は納得して、同日、昭和四五年分所得税について申告納税額を八三万九、六〇〇円とする期限後の確定申告書を津税務署長あてに提出したのである。

従って本件申告は何ら瑕疵はなく、原告英郎に対する租税債権は適法に確定して存在しており、原告英郎に対する本件差押処分及び原告志げに対する第二次納税義務告知処分はいずれも適法である。

3  同4の事実は認める。

三  被告の主張

本件差押処分及び第二次納税義務告知処分は適法である。

1  原告英郎は、昭和四六年五月三一日、津税務署長に対し、分離短期譲渡所得金額二五六万九、三二〇円税額八三万九、六〇〇円を内容とする昭和四五年分所得税の確定申告書を提出した。

2  津税務署長は、昭和四六年六月七日付を以って原告英郎に対し、期限後申告書の提出を理由として税額八万三、九〇〇円の無申告加算税の賦課決定をなした。

3  被告は、昭和四八年三月二三日に津税務署長から徴収の引継を受け、昭和五〇年四月一六日付を以て原告英郎に対し、同人所有の本件建物を差押える旨の差押書を送達して滞納処分を執行した。

4  本件建物の価格は、昭和五〇年四月二六日現在において四三万一、〇〇〇円であり、他に滞納処分を執行すべき財産はない。

5  そこで原告英郎の財産調査をしていたところ別紙物件目録(三)記載の不動産が元英郎の所有に属しており、後に売買又は任意競売等により第三者に所有権移転がなされ、更に英郎の妻である原告志げに所有権移転されている事実が判明した。右事実を原告等にただしたところ、右物件の取得資金は英郎が出捐してこれを買い戻し、更に原告志げにこれを贈与して所有名義を中間省略の方法により直接原告志げ名義としたことを申し出た。

6  しかも右贈与は昭和四五年四月二五日から同年五月一一日の間になされており、右行為は国税徴収法三九条の第二次納税義務に関する規定に該当するので、被告は原告志げに対し同法三二条一項の規定により第二次納税義務の告知処分を行ったものである。

四  被告の主張に対する原告の認否

被告の主張は争う。

第三証拠

一  原告ら

1  甲第一ないし第一三号証

2  証人永合寿、原告太田英郎本人

3  乙第一号証の成立は否認する。第三号証のうち原告太田英郎作成部分の成立は否認する。但し、その名下の印影が同人の印章によるものであることは認める。その余の部分の成立は否認。その余の乙号各証の成立は不知。

二  被告

1  乙第一ないし第一〇号証

2  証人柏木寿太郎、同永合寿

3  甲第九ないし第一一号証の成立は不知。その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一  請求原因1、2及び4の各事実は当事者間に争いがない。

二  原告英郎に対する本件差押処分について判断する。

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第二号証、同第六号証、証人柏木寿太郎、同永合寿の各証言を総合すれば、原告英郎は、昭和四六年五月三一日頃、永合寿と共に津税務署の柏木係官を訪れた際右係官から、原告英郎が真弓勇から本件土地を買い、月の友の会へ転売したため、原告英郎に譲渡所得税が課せられる旨の説明を受けたこと、そして、右係官が昭和四五年分の所得税の確定申告書に必要的記載事項を代筆して分離短期譲渡税額を八三万九、六〇〇円とする確定申告書を作成したところ、原告英郎は前記説明を納得して右申告書に住所、氏名を記入し太田印を押印した事実が認められ、原告英郎本人尋問の結果中右認定に反する部分はにわかに措信しがたく、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

そうすると、本件確定申告書には何ら瑕疵はなく、原告英郎に対する租税債権は適法に確定存在していることになり、原告英郎の本件確定申告書が偽造である旨の主張は採用できない。

そして、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき第七ないし第九号証及び弁論の全趣旨によれば、原告英郎の前記確定申告書は期限後申告であったので、津税務署長は加算税八万三、九〇〇円の賦課決定処分をし、原告英郎に通知したこと、しかし原告英郎が納税しないので被告は本件建物に差押処分をなした事実が認められる。

従って、本件差押処分は適法である。

三  原告志げに対する第二次納税義務告知処分について判断する。

原告英郎に対する租税債権が適法に確定存在していることは前述のとおりである。

そして、成立に争いのない甲第六ないし第八号証、原告英郎本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第九ないし第一一号証、成立に争いのない甲第一二、一三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一〇号証及び原告英郎本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件建物の昭和五〇年四月二六日における評価額は四三万一、〇〇〇円であり、原告英郎には他に執行すべき財産はないこと。

(二)  別紙物件目録(三)記載の土地につき、(一)、(二)の各土地については原告英郎が任意競売により第三者名義で競落し、その後、それぞれ昭和四五年四月二五日付、同年五月一一日付売買を原因として原告志げ名義に所有権移転登記をし、また同(三)の土地についても原告英郎が小山正子より買戻し同年五月一一日付売買を原因として原告志げ名義に所有権移転登記をすることにより原告英郎から原告志げに無償で譲渡したこと。

以上の事実が認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

そうすると、原告英郎に対する差押処分のみでは原告英郎に対する租税債権について徴収不足になり、その原因は原告英郎の同志げに対する無償譲渡によるものということができ、従って、原告志げは第二次納税義務を負うことになり、被告の右志げに対する第二次納税義務告知処分は適法である。

四  従って、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊島利夫 裁判官 川原誠 裁判官 徳永幸蔵)

別紙

物件目録(一)

津市大字津興字南阿漕田一六〇番地の一所在

一、家屋番号   一六〇番一の二

木造セメント瓦葺平家建居宅  一棟

床面積   七九・六九平方メートル

物件目録

(一) 津市大字半田字四十九山一四六八番

一、畑      一八五平方メートル

(二) 同所一四六九番

一、田      五七八平方メートル

(三) 同所一四七〇番

一、田      一、六八二平方メートル

(四) 同所一四七六番

一、田      八五平方メートル

物件目録(三)

(一) 津市大字津興字南阿漕田一六〇番の一

一、雑種地     二一七平方メートル

(二) 同所一六〇番三

一、宅地      二五四・五四平方メートル

(三) 同所一六一番四

一、雑種地     八九平方メートル

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